はじめに
偉業を成し遂げる人々には、独自の「習慣」があります。
オリンピックで8個の金メダルを獲得した水泳の英雄、マイケル・フェルプスも例外ではありません。
試合前には細かく決められた行動を繰り返し、心身ともにピークコンディションを作り上げていました。
習慣の力は計り知れません。クリエイティビティを高め、悪い癖も正す力があるのです。
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第18章 習慣
-本質的な行動を無意識化する-
2008年の北京オリンピックで8個の金メダルを獲得した水泳選手、マイケル・フェルプス。その成績は、1大会の金メダル獲得数最多記録だ。
彼は試合前に、いつも決まった行動を繰り返す。
細かい行動は割愛するが、主に以下の通り。
試合の2時間前に会場に入り、正確に決まった手順でウォームアップをする。ウォームアップが終わるとイヤホンをつけてマッサージテーブルに座る。この瞬間から試合終了まで、彼とコーチはひとことも会話をしない。
試合の45分前になると、競技用の水着に着替える。
30分前にウォームアップ用プールに入り、600~800メートル泳ぐ。
試合の10分前に控室に入り、ひとりきりで座る。
試合の呼び出しがかかると、ゆっくり踏み台へ歩いていく。飛び込み台には左から上る。飛び込み台を拭いてから立ち上がり、手で背中をたたくような格好で腕を振る。
フェルプス選手曰く、「ただの習慣」だそうだ。
コーチのボブ・ボウマンは、フェルプスと一緒にこの習慣を作り上げた。
動作だけでなく、寝る前や朝起きたときに何を考えるかも習慣化した。ボウマンはこの習慣を「ビデオを見る」と呼んでいる。
完璧な試合を頭の中でイメージするという意味だ。
毎朝起きた直後と毎晩寝る直前に、必ず試合をビジュアライズする。
この習慣について、ボウマンはこうコメントしている。
「試合前に何を考えているかと尋ねたら、フェルプスは何も考えていないと言うでしょう。なにもかもイメージ通り。試合の本番は、朝からずっとやってきたことの続きです。勝利への道をそのまま進むので、当然勝利があるわけです。」
単に練習の成果というわけではなく、習慣のなせる技だ。
非エッセンシャル思考の人は、いざとなったら本気を出そうと考えている。土壇場になってから無理やり全力で終わらせる。
エッセンシャル思考の人は重要なことをやりとげるために日頃からの習慣にする。正しい習慣をつづけていれば、偉大な結果は自然とついてくる。
♢正しい習慣がクリエイティビティを生む
習慣は妨害に打ち克つための最強の武器だ。習慣がなければ、数知れない誘惑に勝つことは難しい。
「フロー体験」(フローとは没頭している状態のこと)の研究で知られるミハイ・チクセントミハイは、クリエイティブな人々が、厳格な習慣に従って行動していることを明らかにした。
自分の行動パターンを遵守すれば、よけいなものごとに注意を奪われずにすむからだ。
シリコンバレーで働くある経営者は、ある習慣を守り続けている。
毎週月曜日、午前9時から12時まで、3時間のミーティングをするという習慣だ。
習慣化することで、ミーティングを企画したり、調整する手間が省けるので、参加者全員の頭脳が思考に集中できる。
ごく自然にクリエイティブなアイデアが飛び出してくる。
♢悪い癖を正しい習慣に変える方法
デューク大学の研究によると、日々の判断の4割は無意識化で行われている。意識的に考える前に答えを出すということだが、これには良い点と悪い点がある。
良い点は、面倒な思考プロセスを飛ばして直感的に有意義な行動ができることだ。
悪い点は、非生産的な行動が無意識に刷り込まれてしまう危険があるということだ。
非生産的な行動とは、ついやってしまう悪い癖のことだ。
たとえば、朝起きてメールをチェックする。仕事帰りに甘いものを食べる。食事中にスマートフォンを見るなどだ。
どうすれば悪い癖を捨てて、正しい習慣に置き換えることができるだろうか。
・行動を引き起こすトリガーを知る
『習慣の力』の著者、チャールズ・デュヒッグによると、あらゆる習慣には「トリガー」「行動」「報酬」の3つの要素があるという。
トリガーとは、ある行動を自動的に呼び起こすためのきっかけだ。
つまり、悪い習慣を変えるためには、行動自体よりも、それを引き起こすトリガーに着目すべきということになる。トリガーを見つけて、別の有益な行動と結びつければいい。
たとえば、会社帰りのケーキ屋がお菓子を買うトリガーになっているのであれば、その店を見た瞬間に向かいの総菜屋でサラダを買うなど。
最初は抵抗があると思うが、繰り返すことにより脳に定着していく。
・新しいトリガーをつくる
新たな習慣をつくりたいなら、新しいトリガーをつくって、有意義な行動を呼び起こせばいい。
著者が日記を書く習慣をつけるために、つくったトリガーを紹介しよう。
いつも使うバッグの携帯電話が入っているポケットの隣に、日記帳を入れておくことにした。
そうすることで毎晩、携帯電話を充電するときに、日記帳を取り出して数行書くようにした。
これが上手くいき、10年以上日記を書いている。
・難しいことから手をつける
シリコンバレーの半導体ベンダー、マイクレル社の創業者レイ・ジン。75歳の現役CEOだ。
1978年にベンチャーキャピタルの投資を受けずに30万ドルの資本金で創業し、以来ずっと黒字経営をつづけている。
彼は1日中あるルールに従って行動する。
それは、「難しいことから先に取り組む」というものだ。
実際に彼は、毎朝5時30分に起きて、1時間エクササイズをする。
「ただでさえ、考えることが山ほどあるからね。規則をつくってふりわけたほうがいい」と彼は言う。
トリガーのテクニックを使って、1日の最初に最難関のタスクを片付ける癖をつけてみてはどうだろう。
・曜日ごとにやることを変える
毎日同じことをするのは退屈かもしれない。
そこで、飽きがこないように、曜日によって行動を変えてみてはどうだろう。
旧ツイッター共同創業者のジャック・ドーシーは、曜日によってやることを変えていた。
月曜日は経営の日。
火曜日は製品開発の日。
水曜日はマーケティングとコミュニケーションの日。
木曜日は開発者やパートナーと会う日。
金曜日は会社の文化を考える日。
その日のテーマに集中していれば、あれもこれもと考えずに済む。
周囲の人もそれを知っているので、曜日に合わせてミーティングや仕事の依頼を入れるようになったそうだ。
・習慣づくりはひとつずつ
新しい習慣をつくるというのはとても魅力的だ。
しかし、いきなりたくさんの習慣をつくろうとしてもうまくいかない。
小さく始めて、少しずつ進んでいった方がいい。
まずはひとつだけ、新しい習慣を始めてみよう。それが定着したら、次の習慣に取り組もう。
習慣を変えるのは簡単なことではない。しかし、いったん習慣を確立すれば、今後は何の苦もなくそのメリットを享受しつづけられるだろう。
結び
人生を変えるのは習慣次第。
あなたの望む人生を手に入れるための第一歩は、今日からひとつだけ良い習慣を始めること。
小さなことから着手し、少しずつ習慣化していけば、やがて大きな変化が待っているはずです。
新しい人生に向けた習慣作りを、今すぐ始めませんか?