はじめに
[概要]
エッセンシャル思考(著者:グレッグ・マキューン、かんき出版)
の要約です。
本書はPART1~4で構成されています。
この記事ではPART4の部分を要約しています。
内容は全て本書から引用しています。
[分量]
ページ数にして88ページ分。
1ページ約1分とすると、約1時間30分で読む分量です。それを約26分で読めるように凝縮しました。
ちなみに、妻は27分で読みました。
この本は、こんな人におすすめです。
・少ない成果でより良い成果を出したい人
・仕事を断るのが苦手な人
・働きすぎて疲れているなと感じている人
前回のPART3はこちらからどうぞ。
PART4 しくみ化の技術
努力せず、自動的にエッセンシャル思考を実現する
何かをやりとげるには2つのアプローチがある。
非エッセンシャル思考の人は、努力と根性でやりとげようとする。
対して、エッセンシャル思考の人は、なるべく努力や根性が要らないように、自動的にうまくいくしくみをつくる。
クローゼットがあふれ返るまで放置してから、苦労して片づけるのではすぐに嫌になる。
そうではなく、きれいになるしくみを日々の行動に組み込んで、散らかることを未然に防いだほうがいい。
たとえば、大きな袋を用意する。ごみの回収日やリサイクルショップの場所を把握する。定期的に服を処分しに行く日を決めておく。
人は楽をしようとする生き物だ。
だから、なんの苦労もなく、スムーズに正しい行動ができるように、
しくみ化が不可欠だ。PART 4では、「しくみ化」の技術を紹介していく。
第15章 バッファ
-最悪の事態を想定する-
「バッファ」(緩衝)とは、2つのものがぶつからないようにするためのものを言う。
バッファとは、日常生活でたとえると車間距離のことだ。
充分な車間距離をとっていれば、周囲の思わぬ動きに対応できて、事故を防いでくれる。
仕事でも同じで、バッファをとっておけば周囲との衝突を減らし、トラブルを防ぐことができる。
これを読んでいるあなたはこのように思ったことはないだろうか?
「5分もあれば着くだろう」
「この作業なら金曜までにいけるんじゃないかな」
「本気を出せば半年で完成する」
非エッセンシャル思考の人は、条件に恵まれたケースを前提に予定を立てる。
しかし、物事はけっして思うように進まない。
その結果、思わぬトラブルに見舞われたりして思ったような成果は出せない。
一方、エッセンシャル思考の人は想定外のことは起こるものだと知っている。
だから、万が一に備えてバッファをとり、想定外のことがあってもペースを取り戻せるようにしている。
私たちの生きる世の中は余裕がなくなってきている。
車間距離を5センチメートルしかとらずに、時速100キロで走っているようなものだ。
一瞬のミスも許されない。そのため、何をするにもストレスがかかり、つねに追い詰められているような気がする。
この章では、そんな危険な状況を脱して、余裕を取り戻すためにバッファをつくるコツを紹介していく。
♢徹底的に準備する
人類初の南極点到達をめぐって競いあった、ロアール・アムンセルとロバート・スコットという人物がいた。
この2人が率いるチームはどちらも南極点を目指していたが、やり方は大きく違っていた。
アムンセンは最悪の事態を想定し、準備を怠らなかった。
一方、スコットは楽観的に、なんとかなると考えていた。
スコットは温度計を1つ、チームの食料を1トン持参し、知識は最低限。
対してアムンセンは、温度計を4つ、チームの食料を3トン持参し、あらゆる資料を読んで知識も多かった。
その結果、無事に南極点に到達できたのはアムンセンのチームだった。
スコットのチームは残念ながら、途中で無念の死をとげた。
♢見積もりは1.5倍で考える
仕事の見積もりが甘すぎて、締め切りに間に合わなかった経験があるだろうか?
これは、計画錯誤(プランニング・ファラシー)によるものだ。
計画錯誤とは、ダニエル・カーネマンが1979年に提唱した言葉だ。
作業にかかる時間を短く見積もりすぎる傾向のことを言う。
なぜ実際よりも短く見積もってしまうのかという理由については諸説ある。特に、「周りによく見られたいから」という説は興味深い。
実際に、匿名で見積もりをさせたら、計画錯誤は起こらなかったと、という報告もある。
理由はどうであれ、私たちは何をするにも遅れる傾向にある。
では、どうすればいいのだろうか?
解決策としては、見積もった時間からさらに1.5倍に増やせばいい。
♢シナリオ・プランニングでリスクを軽減する
ペンシルベニア大学ウォートン・スクールでリスク管理・意思決定センターのセンター長を務めるアーワン・ミシェル=カージャンは、誰もがリスクマネジメントの手法を学ぶべきだと主張する。
彼は世界銀行と提携し、世界でも特に脆弱な85カ国についてリスク調査を実施した。
当時58位だったモロッコに、戦略的なリスク管理のためのアクションプランを提示した。
このアクションプランは個人の活動に応用できる。
仕事や家庭について、次の5つのことを考えてみよう。
①この活動にはどんなリスクがあるか?
②最悪の場合、どんなことになるか?
③周囲への影響はどのようなものがあるか?
④そのリスクは自分にとって、どの程度の経済的負担になるか?
⑤リスクを減らすためにどのような投資をおこなうべきか?
エッセンシャル思考の人は、すべてが思い通りにいかないことを知っている。だから、不測の事態が引き起こすダメージをできるだけ緩和するために、あらかじめバッファを計画に組み込んでおくといい。
第16章 削減
-仕事を減らし、成果を増やす-
あなたは「ボトルネック」という言葉をご存知だろうか?
ボトルネックとは進行の妨げになっている部分のことだ。
たとえば、水が入っているペットボトルを想像してほしい。
飲み口に向かって細くなっていっている。
ペットボトルを逆さまにすると水が落ちていく。
仮にペットボトルの太さが全体で同じであれば、水は一瞬でなくなる。
しかし、出口の部分が細いため水の勢いは弱くなってしまい、時間がかかる。
このようにビジネスや日々の生活で進行を妨げていることに
「ボトルネック」という言葉が使われている。
仕事や日々の生活で、何があなたの進みを妨げているだろうか?
ボトルネックを特定して取り除くことができれば、スムーズに重要なことを達成できる。
エッセンシャル思考の人は、目の前の症状に惑わされず、どこが本当の問題なのかを見極めようとする。
その結果、必要なところに一度だけメスを入れる。
最小限の努力で最大限の効果を得るための普遍的なやり方だ。
♢成果を生まない努力をやめる
エッセンシャル思考の人は、仕事を減らすことによって多くを生み出す。
どの努力が成果を生み、どの努力がそうでないかについて、私たちは注意を払うことを忘れがちだ。
あるいはそれを意識していても、やはり増やすことに気をとられて減らすことを考えない。
たとえば、売り上げを伸ばすために営業人員を増やす。
商品をよくするために、開発者を増やすといったことだ。
もちろん、うまくいく場合もあるが、成果を改善するためには、逆から考えることも必要だ。
エッセンシャル思考の場合、人やお金や時間を増やすかわりに、制約や障害を取り除くことを考える。
そのための3つのコツを紹介する。
1.めざすことを明確にする
最終的にどのような状態であるべきかがわからなければ、そこまでの道筋がみえてこない。
だから、まず最初に「最終的にどこへたどり着きたいのか?」を自問しよう。
ここでは説明のために、「木曜日の午後2時までにレポートの草稿を15ページの分量で作成し、顧客にメールで送る」というゴールを設定してみる。
2.ボトルネックを特定する
めざすべきことがわかったら、「この仕事をやりとげるうえで、邪魔になるものは何か?」を考えよう。
たとえば、情報が足りない、疲れている、完璧にしないと気が済まないなど、すべてリストアップしよう。
リストができたら優先順位をつける。
「これを取り除けば他の問題も解決するような、大きな障害は何か?」を考えよう。
ボトルネックを特定するうえで注意することがある。
それは、生産的な行動が大きな邪魔になる場合があるということだ。
たとえば、メールで情報を共有したり、完成度を高めるために書き直したりすることだ。
今回の目標はあくまで草稿の作成であり、完成版をつくることではないからだ。
3.邪魔なものを取り除く
仮にあなたのボトルネックが、完璧にしないと気がすまない性格だったとしよう。
目標は「草稿」を送ることなので、「完璧じゃないとダメだ」という考えを捨てて「完璧ではなくてもとにかく終わらせる」と考えよう。
最大の障害を取り除けば、他はスムーズに進む。
ここで、著者の体験を紹介する。
子どもがまだ小さく、大学院の学生だったときのことだ。
妻は1日中子どもたちの面倒を見なくてはならないストレスでかなり参っていた。
著者は、「考えたり計画を立てたりする時間がないこと」が妻の子育てを邪魔している最大の原因と考えた。
小さな子どもが3人もいれば、落ち着いて過ごせる時間などとれるわけがない。
そこで著者は、授業以外の活動を大幅に減らした。そして、1日に何時間か子どもの面倒を見てくれる人も見つけてきた。
その結果、妻のストレスは軽減し、子どもたちと過ごす時間が以前よりずっと充実するようになった。
このように、やることを減らして、より大きな成果を手に入れた。
第17章 前進
-小さな一歩を積み重ねる-
心理学の研究によると、人間のモチベーションに対してもっとも効果的なのは「前に進んでいる」という感覚である。
最近の研究では、テレサ・アマビルとスティーブン・クレイマーが「日々のささやかな進歩」こそがやる気を引き出し、高いパフォーマンスを可能にすると結論づけた。
ちょっとした善行を褒めるというやり方は、小さな成功を認めることの大切さを教えてくれる。
仕事でも家庭でも、このような小さなしくみをつくることはできる。
著者は子育てに「ポジティブ・チケット」というシステムを取り入れた。
「ポジティブ・チケット」というのは、カナダのリッチモンド市で警察が導入した制度のことだ。
どのような制度かというと、善い行いに対して切符を渡すしくみだ。善行に対する切符だから「ポジティブ・チケット」だ。
善い行いとは大きなことではない、ゴミをゴミ箱に捨てる、ヘルメットをかぶってバイクに乗る、学校に遅刻しない。小さな善行に対して切符を渡した。
さらに、この切符は引換券の役割を持たせた。切符を利用して映画館やコミュニティセンターを無料で利用できる。
著者の導入した「ポジティブ・チケット」に話を戻そう。
子育てでの悩みは、子どもたちのデジタル機器依存だった。
子どもたちはそれらに夢中になり、くだらない娯楽に多大な時間を費やしてしまう。
時間を制限しようとしても見張っていなければならないし、子どもたちは猛烈に反発した。
そこで、著者は「ポジティブ・チケット」の例にならい、デジタル機器を使用するのにチケット制を導入した。
週の初めにチケットを10枚渡す。チケット1枚につき、30分デジタル機器を使用できる。
しかし、使わずにとっておくと、1枚につき50セントと交換できる。
1週間、デジタル機器を我慢すれば週の終わりに5ドル手に入る。
また、ボーナスポイントとして、読書を30分間したら1枚チケットを手に入れられるようにした。
結果は大成功。デジタル機器を使用する時間が10分の1に減り、読書の時間が増えた。さらに、著者が子どもたちを見張る必要もなくなり、有意義なことに時間を使えるようになった。
このように、しくみをつくるためのわずかな努力のおかげで、その後のすべてがスムーズにまわる。
小さな成功を褒めて、地道な進歩を促進する。
この章では、いくつかの具体的な例を紹介する。
♢最小限の進歩を重ねる
シリコンバレーでよく耳にする「完璧をめざすより、まず終わらせろ」という言葉がある。
これは品質を無視しろと言っているわけではなく、瑣末なことに気をとられず、本質をやりとげろという意味だ。
これの考えを基本にして、「重要なことをやりとげるために、最低限、意味のある進歩は何か?」を考えてみよう。
著者は『エッセンシャル思考』の執筆にも「実用最小限の進歩」を利用している。
まだ、書き始める前の構想段階で、アイデアの一部をツイッター(現X)で
公開することを最小限の進歩に定義した。
もし、反響があれば、それをブログ記事に発展させた。
このような小さな進歩の繰り返しによって、自分のアイデアと人びととのニーズの接点を少しずつ探っていった。
少人数でも人に見せてフィードバックをもらいながら改善していく。
少しずつ進むから無駄な努力をしなくて済む。
♢「早く小さく」始める
重要な締め切りに向かうとき、2つのアプローチが考えられる。
早く小さく始めるか、遅く大きく始めるかだ。
「遅く大きく」というのは最後の最後ですべてやろうとすること。締め切り間近に本気を出して、徹夜でなんとか終わらせることだ。
一方、「早く小さく」というのは、できるだけ早い時期に着手し、軽い負担で終わらせること。
たとえば、2週間前に10分間の準備をするだけで、締切り前の負担がかなり軽くなる。
ほんの少し準備しておけば余計な苦労をしなくて済む。
♢進歩を目に見える形にする
あなたは小学生のとき、目標達成のためにすごろくシートのようなものを使ったことがあるだろうか。
小さく進歩するたびに、シールを貼ったりスタンプを押したりして、だんだんゴールに近づいていく。
日々の進歩が目に見えて、ワクワクしたものだ。
単純に、ゴールに近づく様子が目に見えるのは嬉しい事だ。
それはいくつになっても変わらない。
小さく始めて、日々の小さな進捗を評価する。それを何度も繰り返す。
小さな達成を繰り返せば、目標までの道のりが楽しくなり、満足感の満ちたものとなるはずだ。
第18章 習慣
-本質的な行動を無意識化する-
2008年の北京オリンピックで8個の金メダルを獲得した水泳選手、マイケル・フェルプス。その成績は、1大会の金メダル獲得数最多記録だ。
彼は試合前に、いつも決まった行動を繰り返す。
細かい行動は割愛するが、主に以下の通り。
試合の2時間前に会場に入り、正確に決まった手順でウォームアップをする。ウォームアップが終わるとイヤホンをつけてマッサージテーブルに座る。この瞬間から試合終了まで、彼とコーチはひとことも会話をしない。
試合の45分前になると、競技用の水着に着替える。
30分前にウォームアップ用プールに入り、600~800メートル泳ぐ。
試合の10分前に控室に入り、ひとりきりで座る。
試合の呼び出しがかかると、ゆっくり踏み台へ歩いていく。飛び込み台には左から上る。飛び込み台を拭いてから立ち上がり、手で背中をたたくような格好で腕を振る。
フェルプス選手曰く、「ただの習慣」だそうだ。
コーチのボブ・ボウマンは、フェルプスと一緒にこの習慣を作り上げた。
動作だけでなく、寝る前や朝起きたときに何を考えるかも習慣化した。ボウマンはこの習慣を「ビデオを見る」と呼んでいる。
完璧な試合を頭の中でイメージするという意味だ。
毎朝起きた直後と毎晩寝る直前に、必ず試合をビジュアライズする。
この習慣について、ボウマンはこうコメントしている。
「試合前に何を考えているかと尋ねたら、フェルプスは何も考えていないと言うでしょう。なにもかもイメージ通り。試合の本番は、朝からずっとやってきたことの続きです。勝利への道をそのまま進むので、当然勝利があるわけです。」
単に練習の成果というわけではなく、習慣のなせる技だ。
非エッセンシャル思考の人は、いざとなったら本気を出そうと考えている。土壇場になってから無理やり全力で終わらせる。
エッセンシャル思考の人は重要なことをやりとげるために日頃からの習慣にする。正しい習慣をつづけていれば、偉大な結果は自然とついてくる。
♢正しい習慣がクリエイティビティを生む
習慣は妨害に打ち克つための最強の武器だ。習慣がなければ、数知れない誘惑に勝つことは難しい。
「フロー体験」(フローとは没頭している状態のこと)の研究で知られるミハイ・チクセントミハイは、クリエイティブな人々が、厳格な習慣に従って行動していることを明らかにした。
自分の行動パターンを遵守すれば、よけいなものごとに注意を奪われずにすむからだ。
シリコンバレーで働くある経営者は、ある習慣を守り続けている。
毎週月曜日、午前9時から12時まで、3時間のミーティングをするという習慣だ。
習慣化することで、ミーティングを企画したり、調整する手間が省けるので、参加者全員の頭脳が思考に集中できる。
ごく自然にクリエイティブなアイデアが飛び出してくる。
♢悪い癖を正しい習慣に変える方法
デューク大学の研究によると、日々の判断の4割は無意識化で行われている。意識的に考える前に答えを出すということだが、これには良い点と悪い点がある。
良い点は、面倒な思考プロセスを飛ばして直感的に有意義な行動ができることだ。
悪い点は、非生産的な行動が無意識に刷り込まれてしまう危険があるということだ。
非生産的な行動とは、ついやってしまう悪い癖のことだ。
たとえば、朝起きてメールをチェックする。仕事帰りに甘いものを食べる。食事中にスマートフォンを見るなどだ。
どうすれば悪い癖を捨てて、正しい習慣に置き換えることができるだろうか。
・行動を引き起こすトリガーを知る
『習慣の力』の著者、チャールズ・デュヒッグによると、あらゆる習慣には「トリガー」「行動」「報酬」の3つの要素があるという。
トリガーとは、ある行動を自動的に呼び起こすためのきっかけだ。
つまり、悪い習慣を変えるためには、行動自体よりも、それを引き起こすトリガーに着目すべきということになる。トリガーを見つけて、別の有益な行動と結びつければいい。
たとえば、会社帰りのケーキ屋がお菓子を買うトリガーになっているのであれば、その店を見た瞬間に向かいの総菜屋でサラダを買うなど。
最初は抵抗があると思うが、繰り返すことにより脳に定着していく。
・新しいトリガーをつくる
新たな習慣をつくりたいなら、新しいトリガーをつくって、有意義な行動を呼び起こせばいい。
著者が日記を書く習慣をつけるために、つくったトリガーを紹介しよう。
いつも使うバッグの携帯電話が入っているポケットの隣に、日記帳を入れておくことにした。
そうすることで毎晩、携帯電話を充電するときに、日記帳を取り出して数行書くようにした。
これが上手くいき、10年以上日記を書いている。
・難しいことから手をつける
シリコンバレーの半導体ベンダー、マイクレル社の創業者レイ・ジン。75歳の現役CEOだ。
1978年にベンチャーキャピタルの投資を受けずに30万ドルの資本金で創業し、以来ずっと黒字経営をつづけている。
彼は1日中あるルールに従って行動する。
それは、「難しいことから先に取り組む」というものだ。
実際に彼は、毎朝5時30分に起きて、1時間エクササイズをする。
「ただでさえ、考えることが山ほどあるからね。規則をつくってふりわけたほうがいい」と彼は言う。
トリガーのテクニックを使って、1日の最初に最難関のタスクを片付ける癖をつけてみてはどうだろう。
・曜日ごとにやることを変える
毎日同じことをするのは退屈かもしれない。
そこで、飽きがこないように、曜日によって行動を変えてみてはどうだろう。
旧ツイッター共同創業者のジャック・ドーシーは、曜日によってやることを変えていた。
月曜日は経営の日。
火曜日は製品開発の日。
水曜日はマーケティングとコミュニケーションの日。
木曜日は開発者やパートナーと会う日。
金曜日は会社の文化を考える日。
その日のテーマに集中していれば、あれもこれもと考えずに済む。
周囲の人もそれを知っているので、曜日に合わせてミーティングや仕事の依頼を入れるようになったそうだ。
・習慣づくりはひとつずつ
新しい習慣をつくるというのはとても魅力的だ。
しかし、いきなりたくさんの習慣をつくろうとしてもうまくいかない。
小さく始めて、少しずつ進んでいった方がいい。
まずはひとつだけ、新しい習慣を始めてみよう。それが定着したら、次の習慣に取り組もう。
習慣を変えるのは簡単なことではない。しかし、いったん習慣を確立すれば、今後は何の苦もなくそのメリットを享受しつづけられるだろう。
第19章 集中
-「今、何が重要か」を考える-
ラリー・ゲルウィクスは、ハイランド高校のラグビー部コーチ。就任してからの勝敗は428勝10敗で、同部を36年間で20回全国優勝へと導いた。
彼は「われわれはつねに勝つ」という。
彼の言う「勝つ(win)」とは、チーム全員が考えるべき問いの頭文字でもある。
「今、何が重要か(What’s Important Now ?)」という問いだ。
ラリーは選手たちに、今ここに集中しろと説く。
さらに、「今、何が重要か」という問いは、自分たちのプレイに集中するきっかけとなる。
相手のプレイを気にしていては勝てない。
今ここに集中し、自分たちの動きだけを意識することによって、チーム全体が一つになる。そのまとまりが、スムーズな試合展開を可能にする。
最高の力を発揮するためには、「今、この瞬間」だけを意識しなくてはならない。これはラグビーの試合だけではなく、私たちの仕事や生活にも言えることだ。
♢過去や未来にとらわれない
過去の失敗について、思い悩んでしまうことは誰にでもある。
忘れたいのに、何度も何度もその場面を再生してしまう。
あるいはこの先起こることについて、心配したり考えすぎたりすることもある。考えてもどうにもならないのに、不安で頭から離れない。
過去の失敗や未来への不安にとらわれるのは、人として自然なことだ。
ただし、過去や未来を考えるたびに、目の前の大事なことがおろそかになるという事実も忘れてはならない。
私たちには「今」しかない。未来や過去は想像のなかにあるだけで、けっして触れられない。
私たちの行動が何らかの力を持つのは、今ここにおいてだけだ。
エッセンシャル思考の人は、今ここに集中する。
今この瞬間に何が大事かを考える。
著者の妻であるアンナが、ランチ中にある提案をした。
今このときに集中してみようというのだ。
仕事が忙しいときはたいてい、ランチの時間を利用して朝の相談の続きをしたり、夜の予定を話し合ったりしていた。
だが、それらのことは一切せず、目の前の料理に集中し、ただゆっくりと食事を楽しむ。
食事を口に運んだ時、変化はすぐに起こった。自分の息づかいが聞こえ、無意識のうちに深く呼吸していることに気づいた。
体と心が一致している感じがした。
その感覚はしばらく消えなかった。仕事でも、目の前の仕事に100%集中できた。
この瞬間に没頭することがエッセンシャル思考の生き方だ。
今このときを生きているから、目の前の仕事に全力で没頭できる。
持てる力のすべてを賭けてこそ、偉大な仕事は可能になる。
♢集中の対象をひとつに決める
現代では、マルチタスクの弊害、ということがよく言われている。
だが実を言うと、複数のことを並行して行うことは難しくない。
たとえば、皿洗いをしながらラジオを聞いたり、食事をしながら会話したり、掃除をしながらランチの相談をしたり、メールを打ちながらテレビを見たり。
問題は、人は一度のことにしか「集中」できないということだ。
エッセンシャル思考の敵はマルチタスクではなく、焦点を複数に合わせること、すなわちマルチフォーカスだ。
♢今ここを生きるテクニック
今この瞬間に集中するためにはどうすればいいか
ここからいくつかのテクニックを紹介する。
・「今、何が重要か」を考える
やることが多すぎてなにから手をつけていいかわからなくなったら、まずは考えるのをやめて深呼吸をしよう。
心を落ちつけて、今この瞬間に何が重要かを考えよう。
明日のことや1時間後のことは忘れて、今だけ見よう。
それでも何から手をつけていいのかわからないなら、やるべきことをリストアップしたあと、今すぐやること以外はすべて線を引いて消してしまおう。
・未来を頭の中に抱えない
頭のなかに未来のことが詰まっていると、今この瞬間に集中できない。
理由の一つが、「覚えているうちにやらなくては」という漠然とした焦りを感じてしまうからだ。
そうならないようにするためにも、「今すぐ必要ないけれど重要なこと」をリストアップして紙に書いてみよう。
・優先順位をつける
今すぐやるべきことリストができたら、優先順位の番号を振って、順番に片付けていこう。
一度にひとつのことに集中し、終わったら線を引いて消していこう。
♢マインドフルネスを身につける
自分の日々を振り返り、「今この瞬間」を見つけてみよう。
それを日記に書きとめて、どんな時にそうなるかを分析してみよう。
「今、ここ」を感じられるきっかけがわかったら、その体験を再現できるように練習してみよう。
第20章 未来
-エッセンシャル思考を生きる-
すべてのはじまりは、彼がイギリスで弁護士になる勉強をしていたときのことだった。暮らしは裕福で、学業も順調。未来は明るく開けていた。
毎朝目を覚ますと、彼はたしかな自信を感じた。自分のやるべきことはわかっていた。法廷弁護士の資格をとり、快適な暮らしを手に入れるのだ。
そんなある日、彼は旅に出ていろいろな世界を見てみることにした。
この旅が、すべてを変えた。
マハトマ・ガンジーは南アフリカで、弾圧されている人びとを見た。
彼はその瞬間、世界からそうした抑圧をなくすことが自分の使命であると確信した。
ガンジーは新たな目標に向かうため、それ以外の生活のすべてを捨てた。
質素さを徹底した暮らしで、亡くなったときの所持品は、10個に満たなかったそうだ。
ガンジーのように生きろとは言わない。しかし、本質的な目標のために余計なものを削ぎ落とす生き方は見習うべきだろう。
世界的な偉人でなくても、シンプルで意味のある生き方をすることは可能だ。
この章の目的は、学んだことを人生のすみずみまで浸透させ、エッセンシャル思考を生きる人になってもらうことだ。
♢本質を生きる方法
エッセンシャル思考の実践には、2つのアプローチがある。
ひとつは、生活のあちこちに取り入れる方法。
もうひとつは、エッセンシャル思考を生きるという方法だ。
前者は忙しい日々にまた別のスキルを付け加えるにすぎない。
しかし、後者は違う。
エッセンシャル思考を生き方の基本に据え、何をするにもそこから考える。
エッセンシャル思考が、自分という人間の核になる。
社会的に大きな成功を収めた人のなかにも、エッセンシャル思考の人は多い。
その分野は宗教的リーダー、ジャーナリスト、政治家、弁護士、医者、投資家、アスリート、作家、アーティストなど多岐にわたる。
「より少なく、しかしより良く」を生き方として貫いている。
♢自分の中心にエッセンシャル思考を据える
エッセンシャル思考の目的は、世間的な成功を手に入れることではない。
人生に意味と目的を見出し、本当に重要なことを成し遂げることだ。
将来自分の人生を振り返ったとき、どこにでもありそうな達成リストが並んでいるよりは、自分にとって本当に意味のあることを、ひとつ達成したと確信できるほうがいい。
ギリシャ語には「メタノイア」という単語がある。心の変容を表す言葉だ。ただ、頭で考えるのではなく、心で感じること。それが人の変容をもたらす力になる。
「人は心で思うところのものになる」という言葉があるように、心の奥までしみ込んだ考えが、私たち自身を形づくっていく。
考え方が心の底までしみこんだとき、それは自分を内側から変える力になる。
エッセンシャル思考を生きる人は、周囲の人と同化しない。人がイエスと言うとき、あなたはノーと言う。
なんでもノーと言うのではなく、大切なのは「選ぶ」ということだ。周囲に流されず、自分自身の選択をしよう。
♢シンプルな人生は幸福である
エッセンシャル思考を身につければ、その恩恵は一生ものだ。
どんないいことがあるのか、具体例をあげていく。
・迷わない
大量のやることを効率的にこなすより、そもそもやること自体が少ない方がいい。しっかり優先順位を決めることができれば、やるべきことが明確になる。
・流されない
エッセンシャル思考の人は、自信を持って立ち止まり、ゆっくりと考え、きっぱりとノーを言うことができる。
他人の言いなりにならないためには、自分で優先順位を決めるしかない。最初は尻込みするかもしれないが、やろうと思えばきっとできる。
自分の力を信じよう。
・日々が楽しくなる
自分のやるべきことが見えてくると、日々の暮らしが充実し、今をもっと楽しめるようになる。
著者もエッセンシャル思考のおかげで人生がシンプルになった。そのおかげで、数々のかけがえのない思い出ができたし、楽しいと思えることが増えた。
♢本質を知り、本質を生きる
エッセンシャル思考の生き方は、意味のある生き方だ。
本当に大切なこと大切にする生き方だ。
そのことを考える時、著者はいつも、ある男性のことを思い出す。
その男性は3歳の娘を亡くした。
彼は、娘の短い人生を形に残すために、一本の動画をつくることにした。
しかし、あまりにも物足りない。普段から、旅行や外出の際には必ずカメラをまわしていたが、移っているのは風景や建物や食べ物ばかりだった。
娘の顔のアップは数えるほどしかない。
旅行先の珍しいものを撮るのに夢中で、本当に大切なものをおろそかにしていた。
この話は2つの教訓を与えてくれる。
ひとつは、自分にとって家族がどれほど大切かということ。
もうひとつは、人生の残り時間が本当にわずかしかないということ。
豊かで意味のある人生を選ぶか、それとも苦痛と後悔に満ちた人生にあまんじるか。
人生の分かれ道に直面したら、自分自身にこう問いかけよう。
「本当に重要なことはなにか?」
それ以外は全部捨てていい。
最終章
-エッセンシャル思考のリーダーシップ-
世界最大級のビジネス特化型SNS、リンクトインのジェフ・ワイナーCEOは、「より少なく、しかしより良く」がリーダーシップの決め手だと考えている。
なぜなら、彼がリンクトインのCEOに就任したとき、数々の魅力的なチャンスに流されず、もっとも重要な仕事だけを追求していったからだ。
彼は社員たちに「FCS(フォーカス)」の思想を繰り返し語る。
「少数のことをより良くやれ」
「正しい情報を正しい人に正しいタイミングで伝えろ」
「意思決定のスピードと質を追求しろ」
という3つのセンテンスの頭文字をとったものだ。
これは、エッセンシャル思考のリーダーシップを簡潔に的確に言い表している。
♢エッセンシャル思考のチームをつくる
エッセンシャル思考は個人にとってだけでなく、チームや会社の運営にとっても非常に重要なものだ。
実際に、本書に出てくるアイデアも、経営者たちとマネジメントについて話し合うなかで明確になってきたものが多い。
著者はこれまでにチームのパフォーマンスについて、500人以上の経営者やリーダーにインタビューを行い、
1000を超えるチームのデータを収集した。
その結果、チームのパフォーマンスは「目的の明確さ」に大きく左右されることがわかった。
ある会社の副社長は、「明確さがすなわち成功なのです」と言っていた。
エッセンシャル思考のマネジャーは、けっしてすべてをやろうとしない。明確な目的を持って仕事を精選し、あらゆる業務を「より少なく、しかしより良く」の方針で実行する。
その結果、チームの結束は強まり、さらなる高みへとブレイクスルーできる。
♢エッセンシャル思考のリーダーはいかにチームを率いるか
・人選にこだわり抜く
非エッセンシャル思考のリーダーはこれといった基準もないままに人を雇い入れる。その結果、ダメな部下の管理や教育に多大な時間をとられてしまう。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、人材の選別にこれでもかというほどこだわり抜く。けっして妥協せず、確固とした基準を持って完璧な人材を選びとる。
そして、足手まといとなる人材は容赦なく切り捨てる。
その結果、一流の人材ばかりが集まり、さらにチームの相乗効果で個々の集まり以上の力を発揮できる。
・目的が完全に明確になるまで話し合う
非エッセンシャル思考のリーダーは目的が不明確なので、中途半端にあらゆることに手を出そうとする。
その下で働かされるメンバーは、山ほど仕事を振られてどの方向にも少しずつしか進めない。
対して、エッセンシャル思考のリーダーは目的を明確にする。そうすると、全員が同じところを目指し、一致団結して進んでいけるようになる。
・メンバーの役割をあいまいにしない
非エッセンシャル思考のリーダーは仕事の振り方があいまいで、役割と責任を明確にしない。フレキシブルやアジャイルといった言葉を使って正当化しようとする人もいるが、そんなものは言葉の濫用だ。
何を達成すべきかがわからないので、ただ忙しいふりをして「できる」と見せかける人も出てくる。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、各メンバーの役割をとことん明確に規定する。あいまいな言葉は使わない。
・正しい情報を正しい人に正しいタイミングで伝える
非エッセンシャル思考のリーダーは、情報を伝えるのが下手だ。抽象的でわかりにくい言葉を使い、言っていることもコロコロ変わる。結局何が言いたいのかよくわからない。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、具体的で簡潔な言葉を使い、誤解の余地がないように話す。
無意味な流行り言葉は使わないし、つねに言うことが一貫している。
だから、部下たちもなにが重要かをはっきりと理解し、ノイズを避けて本質を選びとることができる。
・小さな進歩を重ねているかどうか、適切にチェックする
非エッセンシャル思考のリーダーは部下の指導が下手だ。そもそも仕事を大量に振るので、誰が何をやっているのかわからない。
だから部下の方も、適当に手を抜くことを覚えてしまう。
真面目にやったところで、どうせ上司はこの仕事を振ったことなど忘れているのだ。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、各メンバーのやることを明確にしているから、その後の確認もわかりやすい。
自分のやったことをきちんと見てもらえるので、部下のほうもがんばろうと思える。
「より少なく、しかしより良く」の方針でチームを率いれば、チームのパフォーマンスは大きく向上し、本当に意味のあることが達成できる。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。
PART4は「しくみ化の技術」について書きました。
『エッセンシャル思考』はこれで以上となります。
いままでやってきたことを、考え直すきっかけにしていただけたらいいなと思います。
「本当に重要なことはなにか」を日々の生活や、所属している組織に活かして、「より少なく、しかしより良く」成果を出せたらなによりです。
それでは、また次の本でお会いしましょう。