はじめに
忙しい毎日、本当に大切なことに集中できていますか?
ストレスやノイズに惑わされがちな忙しいあなた、今こそエフォートレスな精神を身につける時です。
この章では、雑多な情報の中から本質を捉え、じっくりとものごとに向き合う方法を紹介します。
集中力を高めることで、新たな可能性が広がるでしょう。
第5章 NOTICE -集中- 今、この瞬間にフォーカスする
シャーロック・ホームズは、小説の登場人物のなかでもっとも多くテレビや映画に登場するキャラクターだ。
ホームズの特徴といえば、屈託した観察力だ。彼の鋭敏な目は、どんな些細な情報も見逃さない。
一緒に過ごしているワトソンから見れば、ホームズの能力はまるで魔法だ。
ちっぽけな手がかりからどうやってあれほど正確な事実を導きだせるのかわからない。
しかしもちろん、魔法ではない。
見ることと観察することのあいだには大きな違いがある。
私たちはどれだけ本当にものごとを見つめ、観察しているだろうか。
情報過多の毎日のなかで、目の前のことに集中することは難しい。
難しいのは、聞くことではない。
聞きながらその他のことを考えないことだ。
難しいのは、その場にいることではない。
そこにいながら過去の出来事や未来の予定に気を取られないことだ。
難しいのは何かを見ることではない。
雑多な情報を無視して、見るべきものだけを見ることだ。
最初は難しく感じると思う。
だが、頭の中に割り込んでくるノイズを取り除けば、ホームズの「魔法」に一歩近づくことができる。
この章では、いまこの瞬間に集中する方法を紹介していく。
♢ノイズの中でフォーカスする
NBA(アメリカ・プロバスケットリーグ)の選手であるステフィン・カリーは小柄な選手だ。
身長は190センチ、体重は83キロ。
2009年もカリーがNBA入りした時点で、NBA選手の平均身長は約200センチだった。
小柄なNBA選手は、その身軽さを生かしてアジリティ(機敏性)を訓練するのが通例だ。
だが、カリーは別のアプローチをとった。
脳のトレーニングにフォーカスしたのだ。
たとえば、片手でテニスボールをひとつ中に投げてキャッチしながら、もう片方の手でバスケットボールをドリブルする。
このようなトレーニングを練習することで、複数の情報を同時に処理しながら、タスクに集中する能力が高められる。
いまやカリーは、NBA史上最高のシューターとして知られる存在になった。
近年の研究は、注意力を鍛えると情報処理速度が格段に上がることを実証している。
そしてそれは、練習をすれば誰でも鍛えられる。
エフォートレスな精神とは、大量の情報やノイズの中にありながら、今やるべきことに対する注意と集中を失わない状態だ。
これを手に入れれば、重要なことをピンポイントで把握し、以前は気づかなかった解決策をクリアに見抜くことが可能になる。
注意力を訓練し、ノイズを無視して重要なことに集中しよう。
♢相手のボールを受け止める
人間関係においても、相手を明晰にみることが大切だ。
私たちは往々にして、人と一緒にいながら、相手を見つめることができていない。
心理学者のジョン・ゴッドマンは、妻で同じく心理学者のジュリー・シュワルツ・ゴッドマンとともに、長年にわたって恋愛と結婚生活についての研究をおこなってきた。
ゴッドマン夫妻によると、恋愛や結婚においては、だれしも相手からの「愛情・承認・関心」を求めている。
それらを求める行動は「つながりの呼びかけ」と呼ばれる。
相手からつながりの呼びかけがなされたとき、それに反応する方法は大きく分けて3つある。
第1のタイプは同調反応。
第2のタイプは抵抗反応。
第3のタイプは回避反応。
ゴッドマン夫妻の研究によると、第1と第2のタイプは健全な関係性の範囲内だ。
困るのは第3のタイプ、回避反応である。
これはテニスにたとえると、相手が打ったボールがまったく無関係なところへ飛んでいくようなものだ。
なんでも相手に同調しろというわけでも、つねに全力で関心を持てというわけではない。
大切なのは、きちんと耳を傾け、目の前の相手に集中することだ。
心を落ちつけて「そこにいる」ことは、それだけで心休まる体験だ。
無関係なことに気を取られず、そこに「いる」力を身につけよう。
♢判断ではなく傾聴する
友人や家族が悩みを打ち明けてくれたとき、私たちはすぐに結論を出そうとしがちだ。
だが、すぐに結論を出そうとするのは得策ではない。
とくに「~すべきだ」という話をすると、悩んでいる人は自分の過ちを責められたような気分になる。
そうなると心が閉ざされ、前向きな話し合いができなくなってしまう。
さらに、他人の意見は本人がじっくり考えるためのスペースを奪い、自分で結論を出すことを妨げてしまう。
私たちが他人に差し出せる最善のものは、スキルでもお金でもない。
ただそこに「いる」ことだ。
意見や判断を抜きにして、じっと耳を傾ける。
そうすることで、相手はうちなる心の声を聞き、問題に自分なりの答えを出すことができる。
もちろん注意力のリソースには限界があるため、つねになんでも全力で関心を持てるわけではない。
だが、エフォートレスな精神を身につければ、本当に大事な人やものごとに全力で集中することができるようになる。
どうすればエフォートレスな精神を自分のものにできるか
著者のおすすめは次の5つを日課にすることだ。
1.場を準備する
まず、静かな場所を見つける。スマホの電源を切り。周囲の人に10分間ひとりになりたいと伝えよう。
2.体の力を抜く
背筋を伸ばして、楽な姿勢で座る。
目を閉じ、肩を回す。
顔を左右にゆっくりと動かす。
前進の力を抜き、自然に呼吸する。
3.頭を落ち着ける
いろいろな考えが頭に浮かぶのは自然なことだ。
無理に考えを抑えようとせず、自然に考えがやってきて、去っていくのを感じよう。
4.心を開放する
嫌な人のことが頭に浮かんだら、「許します」とつぶやき、その相手と自分をつないでいた鎖を心の中で断ち切る。
5.感謝の呼吸
過去に感謝を感じていた時のことを思い出す。
五感を使って、あたかも今それを再体験しているかのようにイメージしてみる。
あなたはどこにいて、何を感じ、誰と一緒にいるだろうか。
深く息を吸いながら、感謝を全身に取り込もう。
自分の意見や判断を押しつけるのではなく、人の話に全力で耳を傾けよう。
結び
人生は短く、大切なことを見落とすわけにはいきません。
雑音に惑わされず、本質を捉えるエフォートレスな精神を手に入れましょう。
まずは小さなことから始め、少しずつ集中力を高めていってください。
きっと新しい視点が開け、生活が有意義なものになるはずです。
一歩を踏み出す勇気を持ち、今日からエフォートレスな精神を養っていきましょう。