【要約】『エフォートレス思考』PART1

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目次

はじめに

[概要]
エフォートレス思考(著者:グレッグ・マキューン、かんき出版)
の要約です。
エフォートレス(Effortless)とは、「努力を要しない」や「楽な」といった意味です。

本書はPrologue, PART1~3, Epilogueで構成されています。
この記事ではPART1の部分を要約しています。
内容は全て本書から引用しています。

[分量]
ページ数にして88ページ分。
1ページ約1分とすると、約1時間30分で読む分量です。それを約20分で読めるように凝縮しました。
ちなみに、妻は18分で読みました。

この本は、こんな人におすすめです。
・努力を最小にして成果を最大化したい人
・頑張ることが正義だと思っている人
・大変な状況を楽にしたいと思っている人

ブログで著者についてや本の感想を書いています。気になる方はぜひどうぞ。

PART1
エフォートレスな精神

まず、エフォートレスな精神とはどのようなものか?

それは、心身の重荷がなく、頭がすっきりしている状態のことだ。

具体的な例を挙げよう。

WNBA(アメリカの女子プロバスケットボールリーグ)にエレーナ・デレ・ダンというスター選手がいる。

彼女は史上最高にフリースローが上手い、キャリア通算の成功率は93.4%だ。ポストシーズンを含めると、96.4%になる。男女をみてもトップの成功率だ。

成功の秘訣は子どものころに学んだシンプルな方法を貫いていることだ。
フリースローラインの前に立ち、右足を真ん中のポイントに置き、左足をそれに合わせる。ちょうど3回ボールをバウンドさせる。直角に曲げた腕をすっと伸ばし、手首をスナップさせてボールを手放す。

「シンプルにやれば間違えることはありません」と彼女は言う。
さらに、「何より大事なのは、考えすぎないこと。フリースローのいちばんの敵はごちゃごちゃ考えてしまうことなんです」

ダンの成功の秘訣は、頭の中がすっきりしている状態。つまり、エフォートレスな精神だ。

人の脳は処理能力が非常に高いスーパーコンピュータに似ている。

しかし、処理能力が高いのは最適な環境のもとでの話しだ。

ハードドライブに余計なファイルや履歴が詰まっていると処理が遅くなる。
同様に人間の脳も、頭のなかに不要な考えや、ネガティブな感情があると、しこうが妨げられる。

その結果、最高のパフォーマンスが出せなくなる。

なぜそうなるのか?

認知心理学に「知覚的負荷」という概念がある。

脳は普段から多くの思考を処理している。その際、「感情価」が高いものごとにエネルギーを使うようにできている。

たとえば、恐怖や怒りといったものだ。

だから、強い感情があると、脳がそちらにエネルギーを使うので、本当に大事なことをやる余裕がなくなってしまうのだ。

頭の中から余計なものを取り除けば、今ここに集中できる。

そして今やるべきことを、余裕でこなせるようになる。

このPART1では、エフォートレスな精神を手に入れるための方法や考え方を紹介する。

第1章 INVERT -転回-
頑張れば成果が出るとはかぎらない

キム・ジェンキンスは午前4時に資料を作っていた。

最近、勤務先の大学が運営方針を変更し、職場が大きく混乱していた。
そのせいで何をするにも面倒な手続きが必要で、余計な時間と労力がとられていたからだ。

今までは優先順位を大事にし、重要な仕事をきちんとやり遂げてきた。
しかし、今までと同じ量の業務をこなすことは、ほぼ不可能だった。

そんなある日、キムの率いる動画作成チームが、一学期分の講義を動画で記録するように頼まれたのだ。

以前であれば、イントロからエンディング、BGMをつけるなどして最高の動画を作ろうと全力で取り組むところだった。

しかし今回は、どうすれば苦労せずに求められている成果を出せるかと考えてみた。

教授と話してみたところ、一人の生徒のために作るものだとわかった。
その生徒はスポーツの試合などで授業に出られないことが多く、動画でキャッチアップしたいという。

講義の内容さえ把握できれば、演出は何もいらない。

それを聞いたキムはこう提案した。
「それなら、講義に出ている学生にスマホで録画するよう頼んでみたらいいのでは?」

教授はこの提案を受け入れてくれた。

チームで数カ月も取り組む代わりに、数分の会話で見事に問題が解決した。

「どうしてこんなに大変なんだ?」と問うのではなく、「どうすればもっと簡単になるのか?」と考えてみよう。

♢苦労は本当によいことなのか

私たちは大事な仕事に持てる時間とエネルギーのすべてを注ぎ込み、時には心の健康さえも犠牲にする。

まるで自己犠牲にこそ価値があるといわんばかりだ。

「大変だがやりがいのある」仕事に価値が置かれ、「楽して儲ける」のは悪いことのように扱われる。

だが、あえて問いたい。

大事な仕事をやり遂げられない最大の理由は、まさに困難だからではないのか。そして何かが困難だと感じるのは、もっと、簡単なやり方を見つけていないからではないか?

♢最小努力の法則

人の脳は、困難なことを避けて、簡単なことを好むようにできている。
これは、認知容易性バイアス、あるいは最小努力の法則と呼ばれるものだ。

たとえば、何かがほしいと思ったとき、人はもっとも苦労の少ないやり方でそれを得ようとする。

進化的な観点から観ても、こうしたバイアスは有利に働いてきた。

もしも、人の脳が難しい事を好むようにできていたら、種の生存は難しかっただろう。

なぜなら、入手が難しい食べ物を手に入れようとは思わないからだ。

もっとも少ない努力で成果を出そうとする傾向が、ヒトという種の生存を可能にしてきた。

「困難な方法をとる」というのは、自然の傾向に対抗しているということ。

それをやめて、強みに変えてみたらどうだろうか?

「どうやったらこの仕事がもっと楽になるか?」と考えてみよう。

♢頑張りすぎは失敗のもと

著者はある重要なクライアントから、リーダーシップに関するプレゼンテーションを依頼された。

コンサルタントのキャリアが軌道に乗ろうとしていたころだった。

プレゼンテーションが上手くいけば、翌年以降の契約は確実だ。

スライドは既に完成していた。
だが、最初のプレゼンの前日に手を加えてしまった。

もっといいものができる気がしたのだ。

私は自分のアイデアに夢中だった。
一から資料を作り直し、徹夜でスライドを修正した。
配布資料も作り直し、シナリオも書き換えた。

ひどい寝不足のまま本番を迎えた。

結果はご想像の通り、大失敗だった。

なにが間違っていたのか明白だ。
成果を焦るあまりに考えすぎてしまった。
そして、頑張りすぎてしまったことだ。

この経験から得た教訓は
「頑張りすぎは、失敗のもと」
ということだ。

♢考え方を180度逆転させる

エフォートレス思考は、問題に対するアプローチを180度逆転させ、「どうすれば楽になるだろう?」と考えるアプローチだ。

努力と根性で突き進むのではない。
心を落ちつけて、集中した状態で問題を解決する。
そうすれば、より少ない努力で成果を出せる。

大事なことをやり遂げるためには、2つの道がある。

1.人の限界を超えて働き、力ずくで不可能を可能にする
2.もっといいやり方を探し、余裕で成果を出す

たとえば、著者はオフィスの掃除をしていて、古いプリンターが目についた。

ゴミに出すには大きすぎるし、業者を手配することも手間だ。

そこで、「どうしたら簡単に処分できるか?」を考えた。

ふと窓の外に目をやると、工事現場の作業員が歩いていた。
著者は作業員に「無料でプリンターがほしくないか?」と聞いてみた。

もちろん、作業員は「ぜひほしい」と答えた。
その場でプリンターを引き取ってもらった。

たったの2分で問題は解決した。
難しいのは問題そのものではなく、私たちの考え方かもしれない。

不可能を可能にするために、違う角度からアプローチしてみよう。

♢いちばん簡単な問題を見つける

ビジネス特化型SNS、LinkedInの共同創業者であるリード・ホフマンはビジネス戦略で大事なことについて、こう述べている。

「ビジネス戦略でもっとも大事なのは、いちばんシンプルで、簡単で、価値のある問題を解決することです。実際に、いちばん簡単な問題を見つけるのは戦略の要です」

シンプルで簡単な問題こそ、チャンスは隠れているかもしれない。

もしも、日々が困難で、上り坂で大きな岩を押し上げているような気がするなら、一度立ち止まってみたほうがいい。

「楽をするのは悪いことだ」という思い込みは捨てよう。

難易度を下げれば、力を入れなくても前に進む。
大きな困難を感じたら、「やり方が悪いのではないか?」と振り返ってみよう。

第2章 ENJOY -遊び-
「我慢」を「楽しい」に変える

嫌なことを我慢するより、楽しくできるやり方を探した方がいい。

「仕事は仕事、遊びは遊び」とよく言われる。

重要なことは苦痛であり、楽しい事は重要ではない、と多くの人は思いこんでいる。

だが、そのような考え方は、重要なことをやり遂げる邪魔にしかならない。

楽しくないと考えるなら、それはどんどん後回しになる。
そして、仕事をしていないという後ろめたさから、遊びを存分に楽しむことができなくなる。

楽しいはずの遊びが、逆に心を重くする。

よって、仕事と遊びを分けるのは健全な態度ではない。

重要な仕事を楽しい活動に結びつければ、これまで気が重かったことも、エフォートレスに実行できる。

重要な任務と、楽しい行動を組み合わせてみよう。

♢遅行指標を減らす

「遅行指標」というのは、何週間、何カ月、何年もあとになって結果が返ってくること。

たとえば、ダイエットだ。

楽しくないことに私たちが取り組むのは、あとで結果が返ってくるときたいするからである。

しかし、楽しみを後回しにする必要な必ずしもない。

重要なことと楽しい事を結び付けるのは、とても強力なことだ。

著者が出会ったある経営者はポッドキャストを聴くことが大好きだ。
彼は、それをランニングマシンで走るという行動に結びつけた。

最初の内はランニングマシンで走ることが面倒だったが、次第に楽しみながら走ることができたという。

♢仕事も遊びも楽しくやる

著者の家庭では毎晩、家族そろって夕食をとる。

その日の達成を祝い合い、無事に過ごせたことに感謝する。

家族にとって、とても大切な時間だ。

しかし、問題はその後だ。

夕食の片づけの時間になると、子どもたちは驚くほどの速さで、音もなくそれぞれの部屋へと消えてしまう。

なんとか片づけをするようにできないだろうか…。

著者は頭を抱えて考えた。
そんなとき、長女のあるアイデアがこの苦境を救ってくれた。

そのアイデアとは、ディズニーの名曲をかけて歌いながら後片づけをすることだ。

大成功だった。『アナと雪の女王』を歌い、『ライオンキング』に合わせて踊り、『ムーラン』の挿入歌で笑っているうちに片付いた。

仕事と遊びを共存させてみよう。
遊びと笑いを取り入れて、楽しい時間をデザインしよう。

♢習慣は「何を」やるか、儀式は「どのように」やるか

習慣について書いた書籍は多いが、儀式について論じている書籍は少ない。

「XをしたらYをやる」というように、習慣づけが儀式と呼ばれることが多い。

しかし、行動経済学によると、習慣と儀式は大事な点で異なる。

それは、行動したときに満足を感じられるかどうかだ。

言い換えれば習慣は「何を」やるかを問題にし、儀式は「どのように」やるかを問題にする。

儀式は行動に意味を与える。
具体的な例は、「こんまり」こと近藤麻理恵の片づけメソッドだ。

こんまりの片づけは儀式だ。
感性を駆使してときめきを感じ、家に挨拶をし、役目を終えた服に感謝する。

洋服をたたむ、という行為でも「いつも守ってくれてありがとう」と感謝を忘れない。

こんまりメソッドが「人生を変える」のは、片づけの儀式そのものが、人生の大事な一部になるからだ。

面倒なタスクを、意味のある儀式に変えよう。

儀式をうまく使えば、面倒なタスクはときめきに満ちた体験となる。

楽しみはつねに、今このときにある。
将来の満足のために我慢するよりも、一瞬一瞬を楽しい笑いで満たそう。

第3章 RELEASE -解放-
頭の中の不用品を手放す

著者は、スターウォーズに出てくる敵の兵士、ストームトルーパーのコスチュームに身をつつみ、鏡の前に立っていた。

頭からつま先まで、リアルなストームトルーパーの装備に包まれつことは、6歳の頃からの夢だった。それが30年という時をへて、ようやく叶った。

しかし、感じていたのは喜びではなく、「荷をおろした」という思いだった。

ストームトルーパーの装備は、いつかやるべき課題として脳のスペースをひそかに占有していた。

これを読んでいるあなたの頭の中にも、そんな余計なアイテムはないだろうか?

古くなった目標。こびりついて離れない考え。必要ないのに頭のリソースを消費している邪魔な物。

これらは、コンピュータのバックグラウンドで動作している不要なプログラムのようなものだ。

脳の働きを邪魔し、処理を遅くする。

脳のスペースを空けて、本来の動きを取り戻すために、不要な荷物を捨てよう。

この章では、頭の中にある不用品を手放す考え方や方法を紹介する。

♢不足思考から充足思考へ

不運な出来事が起こったとき、どうしても不満や怒りが湧いてくる。

不平不満を言うのは簡単だ。

ところで、不平不満を口にするうち、あるいは人の不平不満を見聞きするうちに、どんどん不満が増えてきた経験はないだろうか?

一方、感謝しようと努めるうちに、感謝すべきことがたくさん見えてきたという経験はないだろうか?

不平不満は、価値のない物事の典型だ。
不満に身を任せているうちに、頭の中に無価値なゴミが溜まる。
そうすると、自由に使えるスペースが減っていく。

だからこそ、不満ではなく感謝に注意を向ければ、世界の見え方は変わる。

後悔、妬み、将来への不安という「不足思考」が消える。
そして、順調だ、恵まれている、将来が楽しみだという「充足思考」へ考え方が変わる。

足りないものに目を向けると、すでにあるものが見えなくなる。
すでにあるものに目を向ければ、心はどんどん満ち足りていく。


自分のもっているものに目を向ければ、足りないものが手に入る。

感謝は強力な触媒だ。
「拡張ー形成理論」という心理学の理論によれば、ポジティブな感情はよい影響をどんどん広げる性質がある。

視野が広がり、新たな可能性に目を向け、心が開放的になり、創造性が高まり、社交性が増す。

さらに、周りの人たちにも広がっていく。

♢不満と感謝の方程式

著者の妻、アンナは苦手な同僚と働いたことがある。

その同僚はいつもネガティブなことばかり言う人だった。

精神的にも肉体的にもきつかった。しかし、その同僚のために仕事をあきらめたくはない。

なんとかポジティブな関係に転換できないかと考えた。

はじめは困難に思えた。しかし、じっくり考えるうちに、同僚の嫌なところは見方を変えればポジティブに解釈できることがわかった。

たとえば、「この仕事はつまらない」と言えば、つまらなくても仕事をしてくれてありがたいと解釈した。

こうしているうちに、同僚のいいところがどんどん見えてきた。

そこで、思い切って同僚の長所を褒めてみた。
褒められることに慣れていなかったため、同僚は驚いていたようだった。

それからポジティブなフィードバックを受けとるうちに、同僚の気分はポジティブになっていった。

やがて、同僚と妻のアンナは仲良くなり、本当の友人になった。

スタンフォード大学で行動デザインラボを創設したB・J・フォッグによると、新しい習慣づくりのコツは既存の行動に新しい習慣を組み合わせることだ。

「Xをしたら、Yをする」という簡単な法則で、習慣づけは驚くほど容易になる。

これを応用すれば不満を感謝に変えることができる。
不満をひとつ感じたら、感謝をひとつ見つけてみよう。

♢ネガティブな感情を解雇する

クリス・ウィリアムズは、人生の最優先事項を知っていた。

家族だ。

彼にとって家族とは、何にも代えがたい価値のあるものだった。

ところが、2007年のある冬の日、悲劇が起こった。

家族を乗せて車を運転していたとき、若者が運転する車が横から突っ込んできたのだ。

11歳の息子、9歳の娘、ウィリアムズの妻、そして妻のお腹にいた赤ちゃんが亡くなった。

6歳の息子はかろうじて生き延びた。そして、14歳の息子は友人の家にいて事故にはあわなかったが、ショックでふさぎ込んでしまった。

事故の数分後、大破した車の中で、ウィリアムズの意識は奇妙に明瞭だった。

その瞬間、悲劇のど真ん中で、彼は2種類の未来を想像した。

ひとつは、怒りと苦しみを背負いつづける未来。
もうひとつは、そうした重荷から解き放たれた未来。

生き残った息子たちの心身の傷が治ったとき、そばにいてやれる父親になる未来だ。

この道を選ぶのは簡単ではないが、選びとる価値のある未来だと思えた。

その瞬間に、彼は許すことを決意した。

怒りや苦しみがなかったわけではない。しかし、苦しみに流されて加害者への恨みを抱え続けるべきではないと思った。

エネルギーを未来のために、過去を手放すことを選んだのだ。

心の貴重なエネルギーを、恨みや不満に費やしてしまったことはないだろうか?

ウィリアムズの話しは、悲劇の中でさえ怒りや恨みを手放すことが可能だということを教えてくれる。

本当に大切なもののために困難な道を選びとることができる。
そのために、少し変わった質問をしてみよう。

「この怒りをなんのために雇用したのか?」

怒りの感情を雇用する目的は、満たされないニーズを満たすためだ。
だが、業績はどうだろうか?怒りはあまりいい仕事をしているようには思えない。

役にたたないなら、すぐに解雇しよう。

自分を傷つけた人に対するネガティブな感情を手放してみよう。
自分自身を解放するためだ。

怒りや不満を、感謝や思いやりに変えてみよう。
それをするたびに、私たちは少しずつエフォートレスな精神に近づくことができる。

第4章 RESET -休息-
「休み」で脳をリセットする

眼科外科医のジェリー・スウェールはすべてを頑張ってこなそうとする人間だった。

限界まで働くのは彼のスタイルだったが、それもだんだん難しくなってきた。

56歳のとき、両手に発疹が現れたのだ。

このままでは仕事に影響するかと思っていたが、忙しいため医者に行くのを先送りにしていた。

そしてあるとき、彼はふと気づいた。

こうしていても、時間が勝手に降ってくるわけではない。
治療を受けたいなら、自分で時間を作るしかない。

数十年のキャリアで、彼ははじめて自分自身のケアを優先することにした。

彼は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、勤務時間の短縮をしたいと言ってみた。

ありがたいことに、みんなすぐ理解してくれた。

彼は皮膚科で治療を受けた。そして、健康のために毎日自転車に乗り、8時間睡眠をとることにした。

5,6時間の睡眠で充分だと、自分に言い聞かせていたのだ。

まもなくビジネスパートナーだった医者が急な事情で仕事を辞めることになり、ジェリーがすべての患者を引き受けることになった。

以前の彼だったら、すべてこなそうと無理をしていたかもしれない。

だが、休むことを学んだいま、彼は無理をしようとしなかった。

自分にできることと、できないことを冷静に考えることができた。

このように十分な休息は、未来のストレスを減らすためにも役に立つ。

この章では休息の大切さを紹介していく。

♢一流の人は休み方を心得ている

休むことを学ぶ必要はないと思うかもしれない。だが、現代の忙しい生活のなかで、多くの人はリラックスする方法を忘れている。

なにもしないでいることを苦痛に感じるのだ。

メジャーリーグの多くの球団で監督を務めたことがあるジョー・マドン監督は、野球選手にも休むのが苦手な人が多いという。大谷翔平選手が所属していたメジャーリーグのロサンゼルス・エンジェルスの監督も務めたことがある。

野球のシーズンは長い。160試合以上もある。1日1試合でも5カ月以上かかる。

そして、長いときには1カ月半ものあいだ、ほぼ休みなく試合をすることもある。

そんななか、マドン監督は別のアプローチをとることにしたのだ。

彼は、8月の暑い時期に、1週間の特別期間を設けることにした。
特別怠けてもいい1週間だ。

試合にだけ顔を出せばいい。寝坊してもいい。昼寝をしてもいい。
アマチュアだったころのように、気楽にやろうじゃないか。

マドン監督は、このやり方で多くのチームで成果をあげた。

最近の心理学の研究でも、マドン監督のやり方が正しい事を証明している。

「なにもしない」技術を身につけよう。
リラックスも仕事のうちだ。

そうは言っても、やりすぎと不十分のあいだのちょうどいいポイントを見つけるのは意外と難しい。

1日の疲れは1日で癒せるように、やることの量を調整する
というルールに従ってみよう。

また、心身の疲れを防ぐためにもっとも簡単な方法は、短い休憩を頻繁にとることだ。

たとえば、以下のようなルールをつくってみよう。

1.午前中に最優先の仕事をする
2.その仕事を90分以内の3つのセクションに分割する
3.それぞれのセッションのあいだに、15分程度の短い休憩を取り、頭と体を休ませる

一流の人たちがやっているように、1日のリズムを計画的に整えて、最高のパフォーマンスを出そう。

♢睡眠負債は認知機能を低下させる

現代人は慢性的に寝不足だ。

50年前の人と比べて、平均で2時間ほど睡眠時間が短くなっているという調査結果もある。

そして、睡眠不足は様々な悪影響を及ぼす。

1日の睡眠時間が7時間未満の人は、心臓病、喘息、関節炎、鬱になりやすい。さらに、肥満のリスクが約8倍になる。

ある研究では、睡眠時間が6時間未満の場合、運動機能や認知機能がかなり低下することがわかった。

怖いのは睡眠不足の影響に自分では気づきにくいことだ。

睡眠不足になるたびに「睡眠負債」は積み重なる。10日も睡眠不足がつづけば、睡眠負債が増えすぎて、1日徹夜したのと同じ状態になってしまう。

自分の体と心のために、たっぷりと睡眠をとろう。

♢睡眠負債に打ち勝つ秘密兵器

睡眠負債を返すための秘密兵器は昼寝だ。

昼寝をすると脳の反応速度が上がり、論理的思考や記号認識のパフォーマンスが上がることがわかっている。

また、気分も安定し、苛立ちや衝動性が減る。
90分の昼寝で、8時間の睡眠と同程度の学習能力向上が見られたと報告もある。

私たちも眠ることに対する罪悪感を捨てて、昼寝をしてみたらどうだろう。
エフォートレスな昼寝のコツは、以下の4つだ。

1.疲れて集中力が低下してくる時間帯を選ぶ
2.アイマスクと耳栓またはノイズキャンセラーで暗く静かな環境をつくる
3.起きたい時間にアラームをセットする
4.昼寝をするときには、他のやるべきことはいっさい考えない
寝て起きたらもっと効率的にタスクをこなせるのだと意識する

昼寝を上手に活用してみよう。

第5章 NOTICE -集中-
今、この瞬間にフォーカスする

シャーロック・ホームズは、小説の登場人物のなかでもっとも多くテレビや映画に登場するキャラクターだ。

ホームズの特徴といえば、屈託した観察力だ。彼の鋭敏な目は、どんな些細な情報も見逃さない。

一緒に過ごしているワトソンから見れば、ホームズの能力はまるで魔法だ。

ちっぽけな手がかりからどうやってあれほど正確な事実を導きだせるのかわからない。

しかしもちろん、魔法ではない。
見ることと観察することのあいだには大きな違いがある。

私たちはどれだけ本当にものごとを見つめ、観察しているだろうか。

情報過多の毎日のなかで、目の前のことに集中することは難しい。

難しいのは、聞くことではない。
聞きながらその他のことを考えないことだ。

難しいのは、その場にいることではない。
そこにいながら過去の出来事や未来の予定に気を取られないことだ。

難しいのは何かを見ることではない。
雑多な情報を無視して、見るべきものだけを見ることだ。

最初は難しく感じると思う。
だが、頭の中に割り込んでくるノイズを取り除けば、ホームズの「魔法」に一歩近づくことができる。

この章では、いまこの瞬間に集中する方法を紹介していく。

♢ノイズの中でフォーカスする

NBA(アメリカ・プロバスケットリーグ)の選手であるステフィン・カリーは小柄な選手だ。身長は190センチ、体重は83キロ。

2009年もカリーがNBA入りした時点で、NBA選手の平均身長は約200センチだった。

小柄なNBA選手は、その身軽さを生かしてアジリティ(機敏性)を訓練するのが通例だ。

だが、カリーは別のアプローチをとった。

脳のトレーニングにフォーカスしたのだ。

たとえば、片手でテニスボールをひとつ中に投げてキャッチしながら、もう片方の手でバスケットボールをドリブルする。

このようなトレーニングを練習することで、複数の情報を同時に処理しながら、タスクに集中する能力が高められる。

いまやカリーは、NBA史上最高のシューターとして知られる存在になった。

近年の研究は、注意力を鍛えると情報処理速度が格段に上がることを実証している。

そしてそれは、練習をすれば誰でも鍛えられる。

エフォートレスな精神とは、大量の情報やノイズの中にありながら、今やるべきことに対する注意と集中を失わない状態だ。

これを手に入れれば、重要なことをピンポイントで把握し、以前は気づかなかった解決策をクリアに見抜くことが可能になる。

注意力を訓練し、ノイズを無視して重要なことに集中しよう。

♢相手のボールを受け止める

人間関係においても、相手を明晰にみることが大切だ。
私たちは往々にして、人と一緒にいながら、相手を見つめることができていない。

心理学者のジョン・ゴッドマンは、妻で同じく心理学者のジュリー・シュワルツ・ゴッドマンとともに、長年にわたって恋愛と結婚生活についての研究をおこなってきた。

ゴッドマン夫妻によると、恋愛や結婚においては、だれしも相手からの「愛情・承認・関心」を求めている。

それらを求める行動は「つながりの呼びかけ」と呼ばれる。

相手からつながりの呼びかけがなされたとき、それに反応する方法は大きく分けて3つある。

第1のタイプは同調反応。
第2のタイプは抵抗反応。
第3のタイプは回避反応。

ゴッドマン夫妻の研究によると、第1と第2のタイプは健全な関係性の範囲内だ。

困るのは第3のタイプ、回避反応である。
これはテニスにたとえると、相手が打ったボールがまったく無関係なところへ飛んでいくようなものだ。

なんでも相手に同調しろというわけでも、つねに全力で関心を持てというわけではない。

大切なのは、きちんと耳を傾け、目の前の相手に集中することだ。

心を落ちつけて「そこにいる」ことは、それだけで心休まる体験だ。

無関係なことに気を取られず、そこに「いる」力を身につけよう。

♢判断ではなく傾聴する

友人や家族が悩みを打ち明けてくれたとき、私たちはすぐに結論を出そうとしがちだ。

だが、すぐに結論を出そうとするのは得策ではない。

とくに「~すべきだ」という話をすると、悩んでいる人は自分の過ちを責められたような気分になる。

そうなると心が閉ざされ、前向きな話し合いができなくなってしまう。

さらに、他人の意見は本人がじっくり考えるためのスペースを奪い、自分で結論を出すことを妨げてしまう。

私たちが他人に差し出せる最善のものは、スキルでもお金でもない。
ただそこに「いる」ことだ。

意見や判断を抜きにして、じっと耳を傾ける。そうすることで、相手はうちなる心の声を聞き、問題に自分なりの答えを出すことができる。

もちろん注意力のリソースには限界があるため、つねになんでも全力絵関心を持てるわけではない。

だが、エフォートレスな精神を身につければ、本当に大事な人やものごとに全力で集中することができるようになる。

どうすればエフォートレスな精神を自分のものにできるか

著者のおすすめは次の5つを日課にすることだ。

1.場を準備する
まず、静かな場所を見つける。スマホの電源を切り。周囲の人に10分間ひとりになりたいと伝えよう。

2.体の力を抜く
背筋を伸ばして、楽な姿勢で座る。
目を閉じ、肩を回す。
顔を左右にゆっくりと動かす。
前進の力を抜き、自然に呼吸する。

3.頭を落ち着ける
いろいろな考えが頭に浮かぶのは自然なことだ。
無理に考えを抑えようとせず、自然に考えがやってきて、去っていくのを感じよう。

4.心を開放する
嫌な人のことが頭に浮かんだら、「許します」とつぶやき、その相手と自分をつないでいた鎖を心の中で断ち切る。

5.感謝の呼吸
過去に感謝を感じていた時のことを思い出す。
五感を使って、あたかも今それを再体験しているかのようにイメージしてみる。あなたはどこにいて、何を感じ、誰と一緒にいるだろうか。
深く息を吸いながら、感謝を全身に取り込もう。

自分の意見や判断を押しつけるのではなく、人の話に全力で耳を傾けよう。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。

この記事では『エフォートレス思考』PART1について要約しました。

次回は『エフォートレス思考』PART2、エフォートレスな行動についての要約です。

頑張らず、流れに逆らわず、自然に成果を出すやり方を紹介していきます。

それでは、次回もお楽しみに。

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